テレビの食レポ番組などで、茨城県を訪れたレポーターが、ウケを狙って茨城弁を使ったりすることがあります。
しかし、これを見ているネイティブな茨城県民の多くは、違和感をいだくはずです。
どこがおかしいのか?
基本的に「ぺ」の使い方が間違っているのです。
茨城弁というのは、なんでも語尾に「ぺ」をつければいいと思っている人が多いようですが、そんな単純なものではないのです。
「ぺ」の使い方1つとっても奥が深いのが茨城弁なのです。
「あそこにあるっぺ」は茨城弁ではない
テレビに登場する芸能人は、さも自分は茨城弁を知っているぞといわんばかりに、「あそこにあるっぺ」とか「中に入るっぺ」などと面白おかしく話したりします。
はっきり言わせてもらいますが、その茨城弁は0点です。
もしネイティブの茨城県民が同じことを茨城弁でいうとすれば、「あそこにあっぺ」「中に入っぺ」となります。
「中に入っペ」は厳密にいうと「中さ入っペ」となります。
さらに発音を正確に再現すれば「あそごにあっぺ」「ながさへえっぺ」と、濁音が混じり「い」を「え」に変換して発音したりします。
「る」のあとに「ぺ」がくるのはおかしい
茨城弁を知らない人が無理やり使う茨城弁には、「ぺ」の前に「る」というよけいなものが入ってしまうことが多いのです。
そもそも「ぺ」を除外しても意味が通じてしまうのは、茨城弁ではないのです。
「あそこにあるっぺ」から「ぺ」を除外すると、「あそこにある」になります。
「中にはいるっぺ」から「ぺ」を除外すると、「中に入る」となります。
どちらも、「ぺ」がなくても普通に意味が通じてしまいます。
ところが、「あそこにあっぺ」から「ぺ」を除外すると、「あそこにあっ」になってしまいますし、「中に入っぺ」から「ぺ」を除外すると「中に入っ」となってしまい、意味不明となります。
さらにややこしいことに、「あそこにある」と「あそこにあっぺ」はまったく意味がことなるのです。
もちろん、「中に入る」と「中に入っペ」も同様です。
「あそこにあっぺ」は、「あそこにある」という断定の表現ではなく、「あそこのあるだろう」といったようなニュアンスになります。
「中に入っペ」も「中に入る」という行動そのものを表す表現ではなく、「中に入りましょう」というニュアンスでお誘いのときに使ったり、「中に入ろう」と自分自身に言い聞かせる意味合いで使ったりします。
何度もいいますが、茨城弁というのはなんでもいいから語尾に「ぺ」をつければいいというものではないのです。
「ぺ」の使い方ひとつでも、とってもとっても奥が深いのが茨城弁なのです。
「ぺ」と「べ」の違いが分からない人も多い
茨城弁を知らない芸能人の方々は、基本的に「ぺ」と「べ」の使い分けもまったく分かっていないようです。
たとえば、「早く行くっぺ」などというおかしな言い方をしたりします。
意味的には「早くいこう」ということなのだと思いますが、この場合、ネイティブの茨城県民はそういった表現はしません。
「早く行こう」を正しい茨城弁で表現すれば「早ぐ行ぐべ」となります。
つまり、語尾は「ぺ」ではなく「べ」が正しいのです。
何でも語尾に「ぺ」がつくのではなく、「べ」がつくこともあるのです。
「だっぺ」もネイティブ茨城県民によく使われます
「ぺ」以外の茨城弁を象徴する表現に「だっぺ」があります。
茨城弁を知らない芸能人が「これからバスに乗るだっぺ」などといったりしますが、これもネイティブの茨城県民からすればおかしな表現です。
なぜなら、「バスに乗る」という動作を表す言葉のあとに「だっぺ」をつけることはないからです。
実は、「だっぺ」とうのは、物事を推測したり相手に同意を求めたりするときに用いられる表現なのです。
たとえば、「俺らが乗るのはあのバスだっぺ」といった使い方をします。
意味的には「俺たちが乗るのはあのバスだろう」とか「俺たちが乗るのはあのバスだよね」といったニュアンスになります。
「だっぺ」と似た表現に「だべ」がありますが、この「だべ」は茨城県以外の都道府県でも広く使われているようです。
都会に住む若者が、普通に「これお前の写真だべ」などと言ったりします。
また、この「だっぺ」や「だべ」は、茨城弁の上級者になると「だへ」などという表現に変化したりします。
「あそこに居んのはお前の弟だへ」といったような使い方をします。
意味は、「あそこに居るのはお前の弟だろう?」です。
やはり方言といえども、上級者になると他の人と同じようオーソドックスな使い方はしたくないと考えるのでしょう。

茨城弁をマスターするのは簡単ではない
茨城弁の中でも、特に「ぺ」や「だっぺ」は象徴的な表現であるため、とりあえず語尾に何でもいいから「ぺ」や「だっぺ」をつけておけばなんとなく茨城弁らしくなります。
しかし、茨城弁を知らないテレビの視聴者をごまかすことはできても、ネイティブの茨城県民には通用しません。
よく関東の人が話す関西弁は不自然だといわれますが、ネイティブ以外の人が話す茨城弁はそれ以上に不自然です。
かといって、ネイティブじゃない人が正しい茨城弁をマスターすることは容易ではありません。
もちろん学校では教えてくれませんし、駅前留学もできません。
問題集もリスニング用CDも辞書もありません。
そう考えると、本格的な茨城弁をマスターするのは、英語をマスターするよりもはるかに難しいということがお分かりになるかと思います。
このまま茨城弁を話せる人がどんどん減ってしまうとしたら、流ちょうに茨城弁を話せる人は将来的に非常に貴重な存在になっていくに違いありません。
ひょっとして、近い将来に茨城弁マスターが無形文化財に選ばれる日が来たりする??
文:護持八平