茨城弁の表現の1つに「だっぺ」があります。
茨城弁をほとんど知らない人であっても、この「だっぺ」という言葉を耳にするたび、茨城県ののどかな風景を連想するに違いありません。
茨城県出身のプロ野球選手だった井川慶選手の、阪神時代の愛称が「だっぺ」だったことはあまりにも有名です。
まさにこの「だっぺ」は、茨城弁を象徴している代表的な方言といってもいいでしょう。
茨城県に生まれ育った、茨城弁のネイティブスピーカーである護持八平が、このあまりにも有名な「だっぺ」について解説をしてみたいと思います。
「だっぺ」には「~だろう」という推量の意味があります
「だっぺ」という茨城弁を耳にしたことがある人であっても、具体的にどのような場面のときにどんな意味で使われるのかを正しく理解している人は少ないかも知れません。
実は、この茨城弁の「だっぺ」には、「~だろう」という推量の意味で使われることが多いのです。
たとえば、「やっぱり、なんつっても、コメはコシヒカリだっぺ」などと言ったりします。
これを標準語に翻訳しますと、「やっぱり、なんといってもコメはコシヒカリでしょうな」となります。
「最高のお米はコシヒカリだよなぁ」という自分自身の思いを、「だっぺ」という表現に込めているわけです。
また、推量だけれども、断定的に言うときにもこの「だっぺ」が使われます。
たとえば、学校で子どもが先生にげんこつを食らったことを親に告げ口したりすると、「おめぇが悪いんだっぺ!」などと言われたりします。
つまり、「お前が悪いからだろう」と親は断定的に決めつけているわけですね。
先生に怒られて親に怒られて、まさに踏んだり蹴ったりです。
もちろん、いまの学校では体罰禁止ですので、これは筆者が学校に行っていた当時の話です。
当時の学校の先生というのは絶対的な存在でしたので、子どもがどんな理不尽なことで怒られたとしても、先生が正しくて子どもが悪いということになってしまったのです。
モンスターペアレントに悩まされている現在の先生とは大違いですね。
「だっぺよ」の後ろにつく「よ」とか「な」
「だっぺ」のあとに「よ」がついて、「~だっぺよ」などと言うことがあります。
これは、標準語の「だろう」でも同様に「だろうよ」などといったりするように、言葉を強調するときの表現になります。
たとえば、標準語で「そんなのあたり前だろうよ!」などと言ったりすることがありますが、茨城弁でも同様に「そんなのあだりめだっぺよ!」といった表現になります。
「だっぺ」のあとに、「な」がつくこともあります。
相手の言っていることに対して同意をするときに、標準語で「そうだろうな」などといいますが、茨城弁の場合も同様に「そうだっぺな」といった、語尾に「な」のついた表現になります。
相手に質問をするときの疑問文でも「だっぺ」は使われます
「~だろう」という推量を表す使い方が基本となる「だっぺ」ですが、実は不確かなことを相手に質問をするときにも使われます。
たとえば、「おめー来年は還暦だっぺ?」といった表現です。
標準語に翻訳をすると、「あなたは来年還暦になるんでしょう?」となります。
なんとなく、分かってはいるんだけど、確認のために質問をしているわけですね。
この使い方の場合、「だっぺ?」と発音するときに語尾があがります。
相手に念を押す形の疑問文にも「だっぺ」が使われます
たとえば、「おめー、サッカーすんの好きだっぺ?」などと言ったりします。
これを標準語に翻訳すると、「君はサッカーをするのが好きだよね?」となります。
これは、中学校の英語の授業でならった、付加疑問文の形ですね。
「You like playing soccer, don’t you?」という英文の「don’t you?」の部分ですね(笑)
本当に「だっぺ」という茨城弁は奥が深いというか、さまざまなニュアンスで使われますので、見よう見まねでネイティブ以外の人が簡単に使いこなせるものではないのです。
「だっぺ」という一言で言葉が完結することもあります
基本的に、「だっぺ」というのは茨城弁の語尾につく表現ですが、実はこの「だっぺ」だけで全文が完結してしまうこともあるのです。
それは、相手の言ったことに対して同意をするときです。
たとえば、人に勧められたものを買いそびれてしまったときに、「やっぱり、あれ買っておげばいがったな」などというと、相手は「だっぺ」と答えたりします。
標準語に翻訳しますと、「やっぱり、あれ買っておけばよかったな」「そうだろう」とうことになります。
「そうだろう」を「だっぺ」の一言で済ませているわけです。
本来は「そうだっぺ」という表現になるのですが、それが簡略化されて「そだっぺ」になり、さらに省略されて「だっぺ」だけになってしまったのでしょう。
こうして、茨城弁の代表的な表現である「だっぺ」も、進化(?)を続けているわけですね。
文:護持八平